シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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老人と海とアンドロイド 2

 モナカは、アンドロイドとしては変わった造形をしていた。普段見かけるタイプのものは、人間らしさが意識されすぎていて歪なものが多い。リアクションが大げさすぎたり、対面した際目をこちらに向けすぎたり。わざとそうして、人間がある程度以上信用しないように設計されているのだ、という話を聞いたこともある。そうすることで依存症になる傾向を抑えようということらしい。本当に効果があるのかは疑わしいけれど、一応人間ではないということを察せる手掛かりにはなっている。
 けれどこのモナカの場合、どうもそれが隠されているような気がする。どこかアンドロイドっぽくない。当然、人間っぽいわけではないのだけれど、普通のアンドロイドと違って、何だろう、あまり対人間を意識されていないような気がする。それとも個人所有のものは、こういうのが普通なんだろうか。
 「何か?」
 「え?」
 突然話しかけられて、私は驚いた。
 「先ほどからずっとこちらを見ているようだが、どうかしたのか?」
 「あ、いや……、そうだね。少し休まない?」
 「200メートルほど先に公園がある。それとも、体力が保たないか?」
 「ううん、大丈夫。じゃあそこまで頑張ろう」
 モナカは小さく頷くとすぐに歩き出した。それにしても、見られていたなんて気付かなかった。ずっと正面ばかり見ているようだったのに。私は頬に手をやった。外気よりも熱い。きっと、赤くなっているだろう。ああ、恥ずかしい。

 公園は予想よりもさらにちっぽけだった。というより、看板とベンチが無ければ誰も気付かないのではないかと思う。それらがあれば公園と言えるのか、という問題は気にしないことにした。少なくとも、木陰のおかげで少し涼しい。これで蝉が喧しくなければ、合格点ギリギリだ。
 「モナカはいつ頃から祖父のところにいるの?」
 「その質問はプライバシー保護の為回答出来ない」
 「あっそう……。じゃ、モナカから見て、祖父ってどんな人?」
 「主人だ」
 「うーん、難しいなぁ……。じゃあさ、私から見たら、どんな人に見えると予想する?」
 「キミの父親の父親だ。つまり祖父に当たる」
 「そうじゃなくて……、もう、わざとやってるの?」
 「意図しない回答はしていないが、質問の意図を把握できなかったようだ」
 私は涼しい顔で立ちっぱなしのモナカから顔をそらし、辺りを見回した。蝉の声が響くばかりで、少し気味が悪い。ここまでに何軒か家があるのを見たけれど、本当はここ、廃村なんじゃないだろうか。
 「不安なのか?」
 「え?どうしてそう思うの?」
 「観察から類推した結果だ」
 「そう。モナカは頭がいいんだね」
 「そのように評価されるのは初めてだ」
 けれどモナカは微笑みもしない。ただ、奇麗に透き通った瞳。
 「ねえ、モナカは祖父のこと好き?」
 「それは地球や太陽が好きか、という質問と同じだ。比較対象が無い為、意味が無い」
 「そうかな。人間は、地球でも太陽でも、好きになったり嫌いになったりすると思うよ。私は、こんな暑い日の太陽は嫌い」
 「私は人間ではない」
 「人間になりたいって、思ったことはある?」
 「難しい質問だ。どのような意味で人間という語を使用しているのかによって、回答は異なる」
 「じゃあ、モナカは将来どんなふうになりたい?」
 「許容される限りにおいて、より人間の曖昧さに対応出来るようになるべく設定されている」
 「ふうん。だから、モナカって、変わってるのかな」
 「変わっている、とは?」
 「他のアンドロイドに比べて、ユニークってこと」
 「そうなのか。そのように評価されたことも無い。私が観察する限り、ユニークなのはそちらの観察であると判断する」
 「なにそれ、私が変わり者ってこと?」
 「他の人間に比べて、ユニークということだ」
 やっぱり真面目な顔でそんなことを言うので、私はつい吹き出してしまった。
 「さてと。そろそろ行こうか。歩きたくないけど」
 「了解した」
 「ね、モナカは歩くの好き?」
 「好きでも嫌いでもない。ただ……」
 「ただ?」
 「不得意だ」
 「それはそれは、御愁傷様」
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  1. 2009/07/19(日) 17:18:30|
  2. チラシの裏童話
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夢の手前

 「昔話の中で、人形は人間に憧れるんだ。人間になりたいって、願う。ある話では妬んだりもする。でも、あれって逆じゃないかって、思うんだ」
 「何が、逆なの」
 「命を吹き込まれた人形は、物語の中では人間と変わらない。むしろ経年劣化などを考慮すれば、劣っているのは明らかに人間だよ。でも、それだとプライドかなにかが傷つくから、憧れ、妬まれる対象に自らを当てた。馬鹿らしいよ」
 「そうかな」
 「そうだよ」
 「じゃあ、神様は」
 「ああ、そうだね。うん、じゃあ本当は神様も人間に憧れていたのかもしれない。人間が神様を恨むのは、案外神様に妬まれているからかもね」
 「どうして、神様が人間に憧れるの」
 「さあ、それは聞いてみないとわからないね」
 「ままならないことなの」
 「そう、人間にはままならないこと」
 「ねえ」
 「うん」
 「貴方は、何に憧れるの」
 「うん、昔はね、いろんなものに憧れていた。いろんなものが妬ましかった。だけどね、もう、なににも憧れていないんだ」
 「どうして」
 「どうしてかな。きっと、諦めたんだ。いろいろなものを。多分、一番大きなファクタは、自分を自分だと諦めたこと」
 「後悔してる」
 「なんでそう思うの」
 「そんな顔をしてる」
 「そう。それなら、本当は後悔しているのかもしれない。でも、そうしなければ生きていられなかったのも、確かだよ」
 「どうして、生きようと思ったの」
 「さあ、どうしてかな」
 「考えて、それは大事なこと」
 「誰にとって」
 「生きようとした、貴方にとって」
 「うん。でも、どうかな。生きようとなんて、思ったのかな。生きるとは、行為の継続であって、その継続自体を目的化しなくても生きていける。腹が減ったから食べて、眠くなったから寝る、というだけでもだ。そこに生きようなんて大層な意志はないと思うよ」
 「意志はなかったの」
 「わからない。でも、少なくとも、これまでの行いの向こう側、目的地みたいなものなんて何にも無い」
 「なぜ、生きているの」
 「生きていられるから」
 「貴方は、人間なの」
 「さあ、もう、わからない」
 「どうして」
 「なんだって、同じことだから」
 「貴方は、誰なの」
 「誰だろう。誰だろうね。誰かになりたかった、誰かのなり損ない。きっとそれは、誰も知らない」
 「わかるわけない」
 「わかられたくもない」
 「すべて、微睡みの中に融ける」
 「そして誰もいなくなる」
 「さよなら」
 「うん。さようなら」

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  1. 2009/07/12(日) 05:07:05|
  2. チラシの裏童話
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憂鬱なアンドロイド

 「鬱病、ですか」
 私は顔をしかめた。未だにそんな言葉を使う人間がいることは知っている。ある種の人々にとっては馴染み深いものだし、多くは無自覚に使用しているだけだから不愉快にも思わない。けれど、自分と同じ立場にいる人間、しかもこれからしばらくの間協力せねばならない相手が使うとなれば、話は違ってくる。
 しかも、その言葉の対象がアンドロイドとは、どういうつもりだろう。
 「納得出来ない?」
 静間は私に首を傾げて見せた。挑発的に微笑みながら。これだから、世代が違う同僚とは働きたくない。
 「納得出来るかどうかは、適切な対処が示せるかどうかで判断します」
 「無いよ」
 「え?」
 「だから、対処のしようがない。お手上げ、って言ってるの」
 何を言っているのだろうこの人は。ふざけているのか、それとも馬鹿にしているんだろうか。私は広げられた彼女の手を見つめた。それからゆっくり、彼女の顔を睨みつける。頭の片隅で、この仕事を辞める場合をシミュレートしながら。
 「では、これで治療は終了だと仰るんですか?もうどうしようもないから、あとはリセットするべきだと?」
 「貴方、なかなか残酷なことを言うね。私には、とてもそんなこと言えないな。治る見込みが無いってことは言うべきだと思うけど、それ以上は」
 「先生は、ここがどこで、私たちが誰なのか自覚なさっていますか」
 「しているよ」静間は腰を上げながら言った。「ここはアンドロイドの墓場で、私たちはそこを治める住職だ。貴方、コーヒーは飲める?」
 「結構です」
 私の答えに静間は鼻息を漏らした。
 「私たちの相手は、もう生きていない。この街はそれを誤魔化す為のシステムで、私たちもその一部。私たちと彼らの違いは何か、貴方、わかる?」
 「外部との接続の有無、と仰りたいのですね」
 「その通り。私たちはここに来るものたちを診断する。診断結果は外部に示される。そして判断が下される。私たちも判断することは出来るが、その判断を下すとき、それはどの視点に立った判断なのか自覚すべきだね。ま、釈迦に説法かもしれないけど」
 私は何も答えず、机に置かれたカルテに目を落とした。暗唱出来るような内容しか書かれていない。そこから新しい情報を得ることなど出来ないのに、そこに羅列された文章を読むことはいくらか私を沈静化させた。こういう無駄なプロセスをこなすことが、つまり人間の証だろうか。
 部屋の片隅で静間が自分の入れたコーヒーに文句を言っている。人前で独り言を言う人間が私は苦手だ。ここにいるべきではない、と大きく書かれた頭の中の忠告文がいっそう主張を強くしていくのを感じる。抑止を掛ける理性が「早く帰りたい」と小さく呟く。
 「さて、以上が私の見解。じゃあ次は、貴方の見解を聞こうか」
 「私は、自己診断プログラムの一部初期化、および認知学習のレベルを強化ししばらく様子を見るべきだと判断しました。類似のケースで成功例はいくつか上げられます」
 「しばらく、というのはどのくらいの間?まさか、成果が上がるまでなんて言わないでよ」
 「統計的に判断すると、三ヶ月程度が妥当です」
 「ふうん、まあ、そう判断するなら、そうしても良いんじゃない。私の判断は1対1、貴方のは2対0。より妥当なのはそちらだものね」
 「わかりました。ではそのようにデータを送らせていただきます」
 「はいはい、よろしくね」
 静間は投げやりにそう言って、部屋を出ようとした。
 「あの」けれど、私はそれを引き止めた。
 「なに?どうかした?」
 どうかした?どうかしたのか、私は。どうしてこんなに腹を立てている?こんな、人間相手に。
 しかし、どうかしている私の喉は勝手に震えて声を出し、それに伴って口はどうしようもなく当たり前の動きをした。
 「私は、自分の仕事に誇りを持っています」
 「それで?」
 「静間先生は如何ですか」
 「生憎だけど、余計なものは持たない主義でね」
 「私は貴方を軽蔑します」
 「それで?」
 「それだけです」
 そう、と言って静間は出て行った。きっと口元に相変わらずの微笑みを浮かべながら。
 最悪だ。私は手を振り上げ、机に叩き付けようとした。けれど、手は振り下ろされなかった。いつも、そうだ。代わりに叩き付けられる記憶が意識を埋め尽くす。
 「ちくしょう」
 呟く。独り言は、一人のときに言うものだ。ちくしょう。


 およそ一ヶ月後、件の依頼主は、ビルから落下した。損傷は激しく、もう二度と治らなかった。
 「よくある事故だよ」と静間は言った。
 私は、何も言い返せずに、ただじっと、ニュースを読み返し続けた。

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  1. 2009/07/11(土) 05:10:49|
  2. チラシの裏童話
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