シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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老人と海とアンドロイド 1

 罰ゲームのようなものだと思った。
 窓の外は山と河と田畑、電信柱がときどきあって、廃墟のような人家が稀に。もう涙が出るほどのどかだけれど、罪悪感に苛まれるほど睡眠は取ったから、もはやあくびは出ない。
 この退屈な時間が、結局この夏の縮図になっているに違いない。このところ私は退屈を見つけては、そんな予感を探しているような気がする。あまりよくない兆候だけれど、しかたない。
 振動を感じて、ポケットからケータイを取り出した。見ると母からのメールだった。私はメールを開かずに電源を切って、バックの中にケータイを放り込んだ。iPodの音量を少し上げる。
 大人たちは自分で判断する権利を持っている。家のこと、財産のこと、あるいは町内会のことや政治のこと。それらは彼らが築いたり引き継いだりしたものだから、その権利も妥当だと思う。権利を持つものは平等で、だから彼らは互いの不利益が最小限になるように振る舞う。そういうことを考慮しながら何かを行うというのは、きっと大変なのだろうと想像する。わかるけど、でもだからといって権利を持たないものにどのような影響がもたらされるのか、配慮がなさすぎじゃないのかと私は思うのだ。
 つまり、率直に言うと、私のことももうちょっと考えてよ、と。
 人間というのは、自分に耐えられることが他人にとっても平気なことだと考えてしまいがちだ。そして大人たちは意味の分からない繋がりを信頼しすぎだと思う。血の繋がりが近ければ仲良くやっていける、なんてことはあり得ない。むしろ人間の特性をその同族同士の争いに見るのであれば、近い方が危険だ。人が生涯暴力を受ける確率は、精神的身体的に関わらず他人より肉親の方が多いだろう。あれ、でもこの論理で行くと、母のところにいるより祖父のところにいる方が安全ってことになるような……。
 とにかく、そう、論理なんてどうでも良い。私はこの貴重な夏休みを、祖父のところで過ごさなければならないことに対して、大いに不満を持っているのだ。ほんとに、もう、嫌だな。
 だんだん、お腹が痛くなってきた。到着まであと二十分を切った。電車が止まって、引き返さざるをえないような事故が起きないだろうか。祖父のところに近づけば近づくほど、退屈が輝かしく貴重に思えてくる。このまま目を瞑ったらうっかり寝過ごしてしまって、結局祖父のところを回避出来ないだろうか。そんなことになった場合の言い訳や立ち振る舞いを妄想しながら私は目を閉じた。

 けれど日本の鉄道会社と私の体内時計は融通が利かないほど正常で、予定通りの時刻に私は駅に降り立っていた。その駅はちっぽけな小屋で、自動改札なんてものがあるはずも無く、制服を着た係員に切符を渡すと私は一人きりになった。しばらく聞こえていた電車の音も消えると、ここが駅だということさえ胡散臭く思える。夏にしてはいやに涼しい異様な空間だった。駅の中はほとんど何もなく、壁のところに木製の朽ちかけた長椅子が置かれているだけだった。長椅子の両端に蜘蛛の巣が張っていたけれど、その家主もとっくに退居しているようだった。私は駅から出て、祖父に連絡を入れることにした。
 「失礼します」
 駅を出ると同時にその声は私を呼び止めた。声の方を向くとそこには深く頭を下げた二十代くらいの人がいた。女性なのか男性なのか、どちらともいえない。私はつい振り返ってみたけれど、話しかけているらしい対象は私以外に見当たらなかった。その人はゆっくりと頭を上げて、私をまっすぐに見た。そして私の名を呼んだ。
 「もしかして、祖父が貴方を?」
 「はい。自宅までご案内するように申し付けられています」
 よどみなく、聞き取りやすい完璧な発音。私はこちらに向けられたその顔をしっかりと見た。すべての無駄を切り落としたようにすべての部分が鋭い。顎も唇も鼻も眉も短く切られた髪の一本一本も。そしてきれいな二つの瞳。ほんの少しだけ、人間よりも鈍く動く。眼を観察すれば区別がつくことを私は知っていた。それを理解してから、判断が外れたことはまだ無い。
 「貴方の名前はなんて言うの?」
 「モナカ、と呼んでいただいております」
 「モナカ?えっと、モニカとかモナコじゃなくて?」
 「はい、モナカです。しかしそちらの方が呼びやすいのでしたら、どうぞそのようにお呼びください」
 モナカと名乗ったそのアンドロイドは、微笑みもせずにそう言った。いったい祖父は何を考えているのだろう。私は片手で頭を支えた。
 「ご気分が優れないようですが、何かご用意しましょうか」
 「何が用意出来るの。こんな、何にも無いところで」
 「はい。風邪薬や痛み止め、抗鬱剤、あるいはタクシー、救急車などを」
 「ああ、いいよそんなの、もう」
 「申し訳ございません」
 モナカは再び深く頭を下げた。周りに誰もいなくて良かった。こんなところ、絶対誰にも見られたくない。
 「謝らないで、少なくともそんな大げさな感じにしないでほしいな。あと、できれば敬語もやめよう。肩凝っちゃうよ」
 「わかった。これで良いか?」
 この切り替えの早さが人間とは違う。母などの世代は不気味と感じるようだが、少なくとも私には微笑ましく思える。人間にもこうしてほしい、とまでは思わないけれど。
 「うーん、もうちょっと柔らかくできる?」
 「柔らかい、とはつまり親しげにということか?すまないがあまりデータが無い」
 「ネットに繋がってないの?」
 「自宅に戻れば有線で接続可能だ」
 「え、ここ、無線飛んでないの?嘘でしょ?」
 「無線が飛んでいないとは、私は言っていない。私に無線接続の権限が与えられていないだけだ。必要ならば、この地点の無線の状況をデータとして提出出来るが」
 「いやいや、いいよそんな。しっかし、なんでそんな不便なことを……、あ、いや、説明しなくてもいいよ。あとで聞くから」私は開きかけたモナカの口を慌てて塞いだ。「それより、さっさと行こう。ここから家までは、どのくらいかかるの?」
 「時速4キロメートルの速度を保てば、およそ一時間十三分後に到着出来る」
 「は?歩くの?バスは?」
 「バスを利用するのであれば歩行距離を三分の一程度にすることが可能だ。到着には二時間三十四分かかる」
 「どうして時間が増えてるわけ?」
 「バスがここへ到着するまでの時間を加算した結果だ」
 「だと思った」
 「タクシーを呼ぼうか?」
 「いや、いいよ。歩こう。ああ……、日焼けしそう」
 私は馬鹿みたいに晴れた空を見上げた。罰ゲームじゃなくて、正真正銘罰なんだろうか、これは。ああ、私が何をしたよ、神様。
 「二時間後に夕立が来る。その時間帯を狙えばある程度日焼けを軽減出来るが」
 「歩こう。夕立が来る前に」
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テーマ:創作モノ - ジャンル:その他

  1. 2009/06/23(火) 02:17:41|
  2. チラシの裏童話
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