シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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《9.崩壊》

三年振りの故郷は特に何が変わったということもなく、あるいは村全体がただただ穏やかに死を迎えていくような、緩やかに微笑む老人みたいだと感じた。
駅の近くの自販機でコーラを買ったら、応募期間がとうに過ぎたキャンペーンのシールが貼られていた。
ここではそれが普通だったんだっけ、と僕は懐かしく思いながら、実家に向かって一人で歩いた。
歩道と車道を区切る、消えかけた白線。
車なんてほとんど通らないから、ここで生活する分にはあまり意味がない。
きっと、この白線は子供たちに外の常識を教えるためのものだった。
ここを出ていっても、ちゃんと生活できるように。
僕らは、ここを出ていけるように育てられていたのだな、と今になってわかる。
もはや僕は、拒絶されるだけの部外者にきちんとなれたのだな。
ここのおかげで。

背後から車の音が近づいてきたので、僕は歩道に寄った。
あまりこの村にそぐわない、低いエンジン音だったので、何となく振り向いてみた。
それは黒い小さなオープンカーで、僕をゆっくりと追い越していった。
しかしその車は僕の20mほど先で何故か止まった。
そして運転席にいた誰かが立ち上がり、こちらに向かって大きく手を振った。
僕は10mほど近づいて、ようやくその人物が旧友のSであることに気づいた。
「久しぶり。なに、こんな時期に里帰り?」
「うん。仕事が一区切りついて、さ」
Sは実家まで乗せていってやると言い、助手席のドアを開けてくれた。
僕はゆっくり一人で歩きたいとも思っていたけれど、断るのも悪いと思い彼の車に乗り込んだ。
「どうしたの、この車。自分で買ったの?」
「まあ、盗んだわけじゃあないよ」
僕はつい笑ってしまった。
というのもSは昔、万引き常習犯として校内で問題になっていたからだ。
「しっかし、俺はとてもラッキィだなあ」
彼は上機嫌に言った。
「どうかしたの?」
「いや、ちょうどお前んちに用事があったからさ。どうしたもんかと悩んでたんだけど、うん、なんとかなりそうだ」
「うちに?何の用?」
「いや、仕事でね。あ、そうそう。お前今、何やってんの?」
彼が話題を逸らしたので、僕も気にしないようにして見せた。
もしかしたら、Sはセールスか何かをするつもりなのだろうか。
シャツとジーパンというラフな格好だから、そうではないだろうけれど、もしそうならきっと嫌な気持ちになることになる。
僕は居心地の悪い思いをしながら、そのままSと談笑を続けた。
彼はあまり変わっていないようで、僕はやはりこいつが好きになれないと思った。

やがて僕の実家に着いた。
車を降りる寸前に、Sは照れたように言った。
「そうそう、ちょっとお前にも迷惑をかけるかもしれないけど、まあ、昔の馴染みとして多少大目に見てくれ」
僕は曖昧にうなずいて車を降り、玄関まで歩き、ドアを開けた。
「ただいまぁ」
その瞬間、僕の右側にいたSの左腕が、僕の左肩に乗せられた。
戸惑いつつ、Sの方を見ようとしたが、それよりも速く今度はSの右腕が僕に近づけられた。
その手には、とても軽そうなナイフが握られていた。
「ごめんくださーい」
Sが愛想の良さそうな声で叫んだ。
廊下の奥から、母が出てきた。
僕と、Sと、ナイフに驚いているようだった。
「いやぁ、息子さんと偶然出会しちゃいましてね、折角なんで乗せてきてあげたんですよ、ボクの車に」
母は廊下にへたり込んだ。
震える唇が、僕の名を呼ぼうとしているように見えた。
間もなく、階段を駆け下りてくる音がした後、父が姿を現した。
「こんにちは、ご主人。ああ、こうして見るとやはり親子ですね。驚いた顔がそっくりだ」
耳のすぐそばで、Sの愉快そうな笑い声。
「息子から離れてくれ。その子は関係ない」
「ボクもそう思いますよ。でもいくらご主人の肋を折っても、こちらの願いを聞いてくれないんですもん。しかし古典的な方法ですが、息子さんの肋を折られたら、あるいはと思いましてね」
父は、目を逸らそうとしながらも、何度も僕のことを見た。
わけがわからない。
これは、いったい、何の茶番だろう。
僕の意識はいつの間にか、ここから乖離された。
Sは僕の方を見た。
「お前もさあ、そんなアホみたいな面してないで、泣いたりとかしてくれないかな」
一瞬、Sの右手が首筋から離れたかと思うと、次の瞬間、僕の腹に呼吸が止まるほどの衝撃。
僕がかがむようにして咳き込んでいると、恐ろしい速さでSの膝が顔に近づいてくるのが見えた。
衝撃。
熱い。
右半身にも衝撃。
僕は壁にぶつかった。
父が何か叫んだ。
けれどすぐに静かになる。
顔を上げるとすぐそばにナイフ。
どうして。
やがて意識は途絶えた。

目を覚ましたのは病院だった。
動かせるのは指先くらいだった。
意識が回復してから、医者や看護婦とは会話をしたけれど、それだけだった。
父や母も、もしかしたら怪我を負わされて、入院しているのかもしれない。
そう思ったけれど、僕は医者にも看護婦にも、何も聞かなかった。
何日か経って、病室を代えられ、ある日の午後、Sがやってきた。
「そんな顔しないでくれよ、まあ、仕方ないけどさ」
それから、Sは語った。
彼はとある企業に頼まれ、うちの土地を買収しようとしていた。僕の両親はそれを拒み続けたが、あの日、結局それを承諾した。
そして、両親は、自殺してしまった。
僕がここで眠っている間に。
「お前、何も知らなかったのか」
Sは冷たく言った。
怒っているようにも聞こえた。
「まあ、お前が目を瞑っている間にも、世界は廻ってるってことだ」
僕はSを睨んだ。
「殺してやる、絶対に」
「いいよ。俺なんかの為に人生を棒に振ってくれるつもりなら、いつでもどうぞ」
Sはそれから、鞄から封筒を取り出し、僕のサイドテーブルに置いた。
「俺はいつも待ってるんだ。俺を殺してくれる奴を」
「どうして……、お前がそんな顔するんだよ」
Sは何も答えず、「またな」と手を振りながら病室から出ていった。
僕は、僕の感情や、Sの表情をどう処理してよいのかわからないまま、ただ天井を見上げた。
とりあえず仕事先に連絡をすべきだ、と頭の中に表示された。
それは逃避だろうか。
僕は自問する。
何が失われたのだろうか。
問いだけが頭の中に響く。
僕は、何をすべきなんだっけ。
僕は、いったい誰なんだっけ。
ああ、世界は、やけに騒がしい。
僕は耳を塞ぎたいけれど。
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  1. 2007/10/25(木) 00:02:52|
  2. 連想駄文
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