シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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《11.普通破裂》

「そんでさ、クリスマスプレゼントとかもトイレの前に置いてあったりしてさ。まったく、頭がおかしいわけ、うちのサンタは」
「あはは。いいなぁ、そういうの」
「全然。何が良いわけ?」
「うちはさあ、もうほんとに、何の笑い話にもなんない平凡な家だし。ほら、俺自身も退屈なくらい平凡だろ?」
「んー。でも在り来たりに言えば、普通が一番じゃない」
「普通すぎるんだよね、マジで」
僕は深くため息を吐いた。
本当に、どうしてこんなにも普通で平凡で退屈な境遇に生まれてしまったのだろう。
いつも思う。
もう少しヘンテコで、もう少しスパイスのある日常が僕にだってあってもよかったんじゃないかと。
やがて友人と別れる道まで差し掛かり、いつも通り僕はテキトーに手を振って別れを告げた。
「あ、でもさ」
そのとき、友人が急に可笑しそうな声で言った。
「もしかしたら、アンタが知らないだけで、アンタんちだって普通じゃないのかもしれないよ」
「はあ?」
「あまりにもありふれた家庭に感じるのは、本当のことを隠そうとした結果なのかも」
しばらく僕は友人の言うとおりの世界を妄想してみて、それから首をゆっくりと横に振った。
「アホらし」
「でも、否定はできないでしょ」
「あーあ。じゃ、また明日」
「うん、また明日」
可能性で言えば確かにないとは言えないけれど、うちに限って言えばあり得ないと断言できる。
根拠はないが、それを提示する必要がないくらい、そんなことはわかりきっている。
家に帰れば母が夕飯の支度をしていて、やがて兄と父も帰宅。
くだらないテレビ番組で間を持たせながら夕食を摂って、たいした会話もなく各々自室に帰還。
そして次の日を迎えて、ずっとそれを繰り返して、いつか僕は家を出るだろうけど、家ではきっとその後も同じような繰り返しを続けていく。
何十年先だって見渡せるくらい平坦なのだ、僕の家は。
それが悪いだなんて全く思わない。
でも、面白味に欠けていることは確かなんだ。
健全な一高校生の僕にとって、不健全なくらい健全な家庭。
不幸ではないけれど、僕は少し不運ではないかとときどき考えてしまう。
僕はまた、ため息を吐いた。

曲がり角を曲がると、うちの前に青いスポーツカーが止まっているのが見えた。
おそらく隣の家の知り合いのものだろう。
隣には駐車場がないから、ときどきこんなふうに、うちの前に止められる。
僕は気にせずに玄関のドアを開けた。
「ただいま」
返事はなかった。
ただ、奥の、たぶん寝室の方から物音は聞こえるから、一応いるのだろう。
僕はそのままリビングに入り、ソファに腰掛けてテレビの電源を入れた。
今の時間帯はどうせつまらないニュースしかやっていないけれど、自室へ行くために階段を上るのが億劫だ。
夕飯まで、だらだらしていようと思った。

テレビでは、どの局も今まさに起こっているらしい犯人の立てこもり事件を報道していた。
僕はケータイをいじりながら、ぼんやりとそれを聞く。
事件はどうも、うちの県のK市で起こっているようだ。
現場である何とかという建物を僕は知らないけれど、K市の高校に通う兄なら知っているかもしれない。
場合によっては、今、現場にいるかもしれない。
あの人、結構野次馬だから。
そんなことを考えていると、テレビから意外な声が聞こえた。
「高林ぃー!出て来ーいッ」
犯人の友人とやらが説得を試みているらしい。
見たところ、その友人氏の着ている服は兄と同じ高校のものであり、ついでに、うちは、高林だ。
「トムー!お願いだ、頼むッ、人質を放してやれー!」
こんなのをテレビで放送して良いのだろうか、そして彼らは映されていることを知っていて、そんな恥ずかしいあだ名を叫んでいるのだろうか。
いやいや、そうじゃなくて、肝心なことはうちの兄、高林勤のあだ名が奇遇にもトムだということだ。
奇遇?
いや、でも、だって。
そのとき突然レポータが叫んだ。
「今!犯人が窓から顔を出し!何か叫んでいます!」
テレビに映されたのは、紛れもなく、うちの兄だった。
僕は咄嗟にテレビの電源を落とした。
「あ、帰ってたんだ」
振り返ると母が見慣れない黒い服を着た姿で立っていた。
「母さん。母さん、あの」
僕はテレビをつけるべきか否か、迷った。
「兄さんが、その」
「ごめんね、母さん時間がないんだ。ちょっと用事があって」
そう言うと母は、何故か悲しそうに首を横に振った。
「ああ、もう母さんだなんて名乗る資格、ないんだな」
「は、何言ってんの?」
「理解できないだろうけど、お願いだから聞いて。私ね、今まで黙ってたけど、ある大きな組織の幹部なんだ」
「はあ?」
「冗談じゃなくて。それで、まあ簡単に言えば、抗争で、行かなければならなくなったのよ」
「母さん?」
「もう、ここには帰ってこれない。ごめんね。でも今まで、私、とても幸せだった。それだけは、知っておいて。忘れてもいいから」
母の言葉の真偽はともかく、涙を流しながら微笑もうとするその顔は、とてもつらく悲しそうに見えた。
「じゃあ、ね」
「母さん!」
僕は大きな声でその名を呼んだけれど、彼女は振り返ることなく去っていった。
玄関の方から音がして、やがて車が走り去っていくのが聞こえた。
僕は、追いかけることもせず、さっきまで母の立っていた場所をしばらく眺めていた。

いったい何の冗談だろう。
まったくわけがわからない。
ようやく姿勢を元に戻して、僕はテレビのリモコンを見つめた。
電源をつければまだ兄が報道されているに違いない。
それとも、もう捕まってしまっただろうか。
僕は立ち上がり、母の寝室を見てみることにした。
暗い廊下に出て、いやに静かなこの空間に少し恐ろしさを感じた。
急ぎ足で寝室のドアの前まで行く。
けれどドアの前で、僕は再び固まった。
ここを開けたら、テレビをつけるのと同じように、もう取り返しが付かないことだと理解してしまうのではないか。
でも、事実、取り返しが付かないのなら、開けたって開けなくたって同じことだ。
開けたいか、知りたいか、僕は。
そのとき、中で物音がした。
僕は思わずドアを開けていた。
サイドテーブルの明かりだけが照らす室内、ベッドの下に、父がうつ伏せに眠っていた。
違う、倒れているのだ。
「父さん!」
僕は父に駆け寄った。
体を揺すってみる。
手のひらに当たる父の感触が、心なしか堅い。
揺すっても、揺すっても、何の反応もない。
「父さん……、父さん!」
「ついに、見つかってしまったな」
驚いて振り返ると、ドアの脇に父と同じ姿をした男が立っていた。
僕は、倒れている父とその男とを見比べた。
「安心しなさい。それはキミの父ではない。まあ、死んでしまってはいるが」
「誰……?」
「キミがそれを父と呼ぶなら、私もキミの父だ」
男は父と同じ顔で、ばつが悪そうに口の端を上げた。
「どういうこと」
「キミの父、高林昌明は、人間ではないのだよ」
僕は首を横に振った。
「ある研究施設で開発された、わかりやすく言えば、菌類だ。この、私のような体を一つの単位として、増殖する」
「なんだよ、それ」
「高林昌明は、正確に言えばプロジェクトの名前だ。我々がキミらと関わることで、どういった影響がもたらされるか、それが研究されていた」
「じ、じゃあ、僕も菌類なの」
「いや、キミは人間だ。元々施設にいたのを養子として預かった」
「母さんは」
「彼女はただの協力者。我々も、その代償として彼女に協力した。もう、行ってしまったがね」
僕は、この場から立ち去ることにした。
もう何も聞きたくなかった。
男はドアの前に立ちふさがったけれど、「どいて」と言ったらすんなり引き下がってくれた。
暗い廊下を歩きながら、僕は何とか、今までの普通を思い出そうとした。
でも、どんなだったろう。
あまりにも普通で、平凡で退屈な我が家は、いったいどんなだったろう。
鮮明な記憶さえ残さないほど、穏やかだったんだ。
たしか、たぶん、そうだった。

暗い自室に入った。
いつもと何も変わらない、散らかった僕の部屋。
僕は椅子に座り、机に突っ伏した。
遠くに、パトカーのサイレンが聞こえる。
家の前の道を笑い声が通り過ぎる。
あとはもう、静まり返る。
うち以外にとって、僕以外にとっては、今も昨日と変わりのない平穏な時なのだろう。
僕は明日、どうすれば良いのだろう。
全然わからない、わかりたくない。
「おい」
声がした。
顔の下から。
聞いたことのない声だった。
「おい」
「誰?」
「机だよ、机」
「机が喋るなバカ」
「そういう口の聞き方は、お前の品位を下げるだけだぞ」
机はおどけるように言った。
「まあいい。あのな、俺、今までお前の机としてやってきたけどな、それもどうやら今日までだ」
机までがわけの分からないことを言い始める。
「お迎えが来た机はな、天に還らなきゃなんないんだ」
「ふざけんな」
「あ?」
「ふざけんなバカ!机が喋んな!物理法則に従え!常識をわきまえろ!バカ!」
僕は叫んだ。
父に聞こえただろうかと思い、もはや必要のない恥じらいを感じる自分を、腹立たしく思いながら。
「守ってきたさ、今まで」
机は諭すような声で言った。
「お前のために、常識的にやってきた。でも同時に、それが真実ではないとわかるようなヒントも出してきた。お前に気づいてほしかったからな。でもお前は、いつまでも常識に甘んじ、それ以上何も知ろうとしなかった。それは悪いことじゃない。それは普通のことだ。俺は責めない。けれど、真実は変えられない」
じゃあ、今までありがとよ、と声が聞こえると、一瞬で、あっさりと机は消え去ってしまった。
僕は呆然と椅子に座ったまま、ゆっくりと目を落とした。
左手が目に付いた。
左手は「気にするなよ」と慰めてくれた。
お前まで喋るのかよ、と僕が言うと左手は笑って否定した。
「ただの幻聴だよ。左手が、喋るわけがない」
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  1. 2007/10/27(土) 02:17:28|
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