シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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《16.トマトのケチャップ》

日曜日は親なんていない方が良い。
ずっとゲームをしていられるし、何をしても怒られないから。
今日は朝早くに両親が出かけていった。
結婚式がどこかであるらしい。
こんな日は最高だ。
寝坊だってしたい放題で、夜、親が帰ってくればいつもより豪華な夕食が期待できる。
でも、どうしよう。
微睡みは心地よくて、夢はとても楽しいけれど、時間は限られている。
こうしている間にも出来ることは少なくなっていく。
時間を自由に操れたらいいのに、どうしてそうできないんだろう。
人間の考えられる事なんて、すべて実現可能なものにすぎない、と父さんはときどき言うけれど、少なくとも今の僕には時間は操れない。
ああ、こんなこと考えてたって、仕方ないのに!
僕は意を決して、ベッドから起きあがった。
時計はもう十時を回っている。
計画を立てている暇なんて無いし、前々からこの日のことを教えてくれてなかったことを恨んだってしょうがない。
出来ることを最大限楽しもう。
特攻の精神、未来に向かってバンザイ・アタックだ。
いざ、まばゆき天空へ。

とは言え、お腹が空いた。
人間だって動物だから、栄養を補給しないと充分に動けない。
明日もし、体がロボットに改造される夢が叶うとしても、とりあえず今日のところは人間の体で我慢しなくちゃいけない。
それくらいの我慢が出来るくらいには、僕も大人だ。
冷蔵庫を開けると、一番上にオムライス。
昨日、父さんに頼んで作っておいてもらったやつだ。
母さんに頼んでも良かったけれど、冷蔵庫の野菜室にニンジンの在庫が腐るほどあるのを見つけたから、父さんにした。
そうだ、今の内にニンジンを捨ててしまうのも良い手かもしれない。
なんて少し思ったけど、そんなことしてもどうせ悪徳スーパーから補充されるだけだし、どんな嘘を言ったって事実を見失わないくらいには、母さんだって賢い。
僕はオムライスをそのままレンジで温めて、その間に牛乳を飲んだ。
朝食が終わったらどうしよう。
そうだ、今なら、父さんの工具を使える。
でも、それは、危険だろうな。
父さん、自分の物の位置が少しずれただけでも、気付く人だから……。
レンジが終了の音を鳴らしたので、僕は食べ終えてから決めることにした。
戸棚からケチャップを取り出して、オムライスにかける。
すると、いい加減にかけたはずなのに、何か見たこともないような面白い模様が出来上がっていた。
僕はまだ子供だけれど、人前で食べ物を使って遊んだりするような真似はしない。
でも、今は、人前じゃない。
ケチャップで絵を描いても、別に恥ずかしくない。
僕は黄色いキャンバスにぐちゃぐちゃと絵を描いた。
ひどい出来。
でも、可笑しい。
しかしすぐに黄色は赤で埋め尽くされてしまった。
ついでに、テーブルの上も、少しだけ。
最初は手元が狂っただけだった、本当に。
でも、そんなの誰も見ていないんだし、意図的にやったのと変わらないって言い張られたら、その通りだと思う。
だけどその逆も、同じ事だ。
手元がもうどうしようもなく狂ってしまったんだから、テーブルの上一面にケチャップが散らばったって、僕のせいとは言い切れない。
いや、僕だってバカじゃないから、そんなことで言い逃れできるって本気で思ってたわけじゃない。
でもこういう理屈って、たぶん、スイッチを入れるくらいの効果はあるんだ、困ったことに。
それで、一本目のケチャップが切れた頃には、テーブルの三分の一くらいは絵で埋まった。
逆に三分の二はまだ手つかず。
こういうのは気持ちが悪くて、耐えられない。
平等って大事らしいし、何事も最後までやり通せって校長も言ってた。
だから僕は戸棚から二本目を取り出し、絵の続きを描いた。

完成した頃には、もうお昼を過ぎていた。
なかなか悪くない出来、題名はニワトリの玉子とその他諸々。
そろそろ本気でお腹が空いてきた。
そういえば、邪魔だったからイスの上に置いておいたオムライスがあったことを思い出す。
すっかり忘れていた。
見ると、気味が悪いくらいケチャップがかけられたオムライス。
こんなの、食べられるはずない。
実際ケチャップに沈んでいるって言っても良いくらいだもの。
上の部分をスプーンで取れば、大丈夫かな。
とにかく流しまで運ぼうと皿を持った、そのときだった。
手が滑った。
皿は落ちて、床が、そう、ケチャップまみれ。
これはまずい。
慌ててオムライスだった物を拾い集めて、ティッシュで拭いたりしたけれど、あいにく床はカーペットだ。
赤いシミが全然落ちない。
やばい、こんなの絶対に怒られる。
ああ、何でこんな目に遭わなくちゃいけない?
汚れた部分を切り取って捨ててしまえば、汚したことは隠せる。
あるいは、お湯をぶちまける?
駄目だ、意味がない。
だいたい食べ物を落としてしまったなんて恥ずかしいこと、絶対に隠さなきゃ。
ポジティブに考えよう。
どうせ僕はこのシミによって怒られるんだ。
それはもう回避不能。
だったら、シミがさらに増えるような遊びを、今だけ許されていると考えられないか?
ケチャップ。
赤いシミ。
赤……。
偽物の血。
死体ごっこ。
うん、一度やってみたかったし、この機会を逃す手はないよな。
僕は残りのケチャップを全部床にぶちまけた。
母さんたちが帰ってくるまでには、あと少なくとも四時間はかかるだろう。
それまでは、ゲームでもしていよう。
僕は犯行現場を後にした。

それから四時間経って、僕はもうあまり着ないだろうと思う服に着替え、ケチャップの海にダイブした。
冷たくて気持ち悪い。
早く帰ってきてほしいと思う。
床と接触する右耳からは喧しい呼吸。
左の耳が、呑気な町内放送の音を拾う。
目を開けて、左手が見える。
まだ動くだろうか。
どうやって僕は動かしていたんだっけ。
人差し指を少しだけ曲げてみて、ちょっと安心。
人はいつか死ぬのだという。
呼吸も鼓動もいつの間にか気にならなくなって、こんな静かなら、別にそれでも良いかと思う。
だんだんと、眠くなってくる。
早く帰ってこないかな。
遠くで救急車のサイレン。
電話が鳴り出した。
でも、ごめん。
今、ちょっと、死んでいるから出られないね、僕。
鳴り止まない電話。
僕は目を瞑った。
父さんも母さんも、まだ、帰ってこない。
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  1. 2007/11/07(水) 21:31:20|
  2. 連想駄文
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