シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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朝靄

 まるで河の一部みたいな街だった。だから、こんな朝は珍しいことではなかった。
 濡れたベンチに腰掛けた。ポケットからタバコを取り出しながら、君の歩いて行った方を見た。戻る気配はない。鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。同じ方向に時計がたっていたはずだけれど、残念ながらそれは見えない。心なしか、吸い込んだ煙は湿っぽかった。
 人には距離が必要だ。見えなくなるくらいの距離がいい。この霧を思い切り吸い込んで、僕が見えなくなったら、どんなに良いことだろうか。大きくなりたいんじゃない。できるだけ薄くなりたいんだ。僕は指標が欲しいんだ、誰が僕を見ようとしているのか。遠ざかろうとしているのは誰か。
 スピーカーから擦れたメロディが流れ出す。もう朝だ。やがて太陽が、世界を照らし、影を明瞭にして、意思をからかいだすだろう。ここにあるすべてが、求めずともある。ほら、必要なものは用意したよ。あとは色を塗るだけだよって。

 仕方がないけれど、まだ見たくない。まだ知りたくない。どうか照らさないで。朝靄は、きっと、そこら辺を流れる河に沈んで、もうずっとそのままでいる誰かの慰めなのだろう。ため息と嘲笑と同情。心地の良い憐憫。
――おはよう
 気が付くと目の前にいた君がそう言った。真新しい笑顔で、下ろしたての髪が、心なしか濡れているようだった。
――おはよう
 もう一度言う。答えない僕の代わりをするように。
 けれど僕はうつむいて、首を振った。
――帰ろう
 まだ、靄が晴れないうちに。部屋へ逃げ込もう。影を見られないうちに。
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テーマ:落書き - ジャンル:その他

  1. 2008/04/29(火) 22:03:10|
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