シッタカブリオーネ

虚言・妄言・支離滅裂

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泣女

 サワ子さんは僕の遠い親戚で、ときどきウチへ泊まりに来ていた。彼女がやって来るのはいつも突然で、そしていつも慌ただしく帰って行ってしまった。幼い頃の僕にとって、彼女は不思議な存在だったけれど、それでもなぜか彼女が来ると、僕はとても嬉しかったのを覚えている。正直に言えばそれは、単純に彼女がきれいな人だったからというのもあっただろう。
 彼女がウチへ来る理由を理解したのは僕が九つになった頃だ。ちょうど祭りの前日に彼女はやって来た。どうやら途中で足を挫いたようで、彼女は棒切れを杖の代わりにしていた。父と母とサワ子さんは土間で静かに話し合って、そうして僕は、サワ子さんと二人で隣村まで行くことになった。「仕方あるめえ」父が何度かそう言った。その度にサワ子さんが、申し訳なさそうな顔をするのだが、僕はそれが嫌だった。
 サワ子さんと二人で歩くのは楽しかった。僕のくだらない話に彼女はいちいち笑ってくれたし、川で水切りをしてみせれば驚いた顔で褒めてくれた。
 隣村へ着いた頃、空はすっかり曇っていた。さっさと用事を済ませて帰ろうと僕が言うと、サワ子さんは困った顔で頷いた。「この辺で遊んでいるといいよ、アタシはもう、大丈夫だから」彼女はそう言ったけれど、僕は着いて行くことにした。そうしたら父と同じに、彼女を見捨てたみたいで嫌だったからだ。
 サワ子さんは村の人に声をかけ、どこかへ案内してもらった。着いた場所は黒と白の幕が掛かった家だった。彼女は家に入る前に僕に振り返り、小声で言った。「ここで待っていて、すぐに済むから」
 きっと見せたくなかったのだろう。僕は彼女の言葉に頷いたけれど、こっそりと見てしまった。人集りの中、誰かの布団の傍らで、声を出して泣きじゃくる彼女の姿を。それはとても悲しそうで、それはとてもきれいだったけれど、僕にはまるで祭りのときに見る人形の劇みたいに感じて、少しだけ、滑稽に見えた。
 「知ってる人だったの?」帰り道に、僕は訊ねた。辺りは暗くなっていたけれど、サワ子さんが首を振っているのは分かった。「じゃ、どうして?」
 「知らんでいいよ。そんなこと」彼女の言葉に僕は黙った。その声が震えていたことに気付いたから。
 「ごめんね。でも、知らずに済むなら、知らなくていいことだから」暗闇の中で、サワ子さんは言った。「その方が、ずっといい」

 サワ子さんは、けれど生涯、泣女としての務めを果たした。僕が大人になってからもずっと。彼女が亡くなったのは一昨年の春だった。僕は葬儀に参列したけれど、もうすっかりそういった別れに慣れきってしまっていて、泣くことはできなかった。しかし、泣女を呼ぶことはしなかった。代わりにその日は大雨が降って、夜更けまで、カエルが鳴くのをやめなかった。僕は彼女の傍らで、いつまでもそれを聞いていた。
 今はもう、昔の話だ。
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テーマ:落書き - ジャンル:その他

  1. 2008/05/08(木) 04:00:48|
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